インフォグラフィックの基本を全9回で解説します。今回はその第5回です。第1回から読むにはここからどうぞ。
はじめに
前回は、インフォグラフィックが求められる背景を解説しました。今回は、インフォグラフィックの使い道を考えます。
インフォグラフィックは交通案内や百科事典、新聞などオフラインの環境で古くから使われてきた表現です。それが、2010年前後からオンラインでの活用が本格化し、オフラインのインフォグラフィックと異なる目的で使われるようになっていきました。
まずはインフォグラフィックのオンライン活用のきっかけをおさらいし、その上でオフラインのインフォグラフィックとの違いや使い道を見ていきましょう。
オンライン活用の契機
1990年代後半〜2000年代初頭、オンラインの情報へのアクセスは、Googleを筆頭にテキスト検索が中心でした。インフォグラフィックや動画のようなビジュアル情報へアクセスする環境が整っておらず、SEO(検索エンジン最適化)にも不向きだったため、インフォグラフィックの活用は限定的でした。

その後、2000年代〜2010年代にかけて、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアが勃興し、検索で能動的に情報にアクセスしていた時代から、フィード上に流れる情報を受動的に受け取る時代へ移っていきます。そこで目に止まるには、他の投稿との違いが必要で、新しいコンテンツが求められるようになりました。

同じ頃に「コンテンツ・マーケティング」も叫ばれ、オウンドメディアやソーシャルメディアで、独自性の高い特別なコンテンツを提供したいという情報発信ニーズも膨らんでいきます。
こうした流れに合わせて、2009年にインフォグラフィックを得意とするクリエイティブ・エージェンシー「Column Five」、2011年にはインフォグラフィック共有サイトとしてスタートし、後にクリエイターのマッチングプラットフォームへと進化した「Visual.ly」(※)、ビジネスやテクノロジーのトレンドをインフォグラフィックで伝えるビジュアル・メディア「Visual Capitalist」といったインフォグラフィックに特化したサービスが生まれています。
※ 「Visual.ly」は、2016年にコンテンツマーケティング支援プラットフォーム「ScribbleLive」が買収。さらに2019年に「ScribbleLive」を「Rock Content」が買収しています。
加えて、Instagram、Pinterestの創業も2010年で、ビジュアル・コミュニケーションが花開こうとしているタイミングとインフォグラフィック活用が広がる時期は重なっています。
それから、ソーシャルメディアによる情報流通の変化以外にもう一つ重要だったのが、スマートフォンの普及で、インフォグラフィックのデザインに大きく影響しました。
初期のオンライン・インフォグラフィックは、雑誌や新聞で見られるような横長のインフォグラフィックが主流でした。デスクトップのコンピュータでの閲覧がメインだったことが理由で、雑誌などオフラインで培われたデザインを踏襲できるというメリットもありました。
それが、2007年のiPhone登場で、スマートフォンが普及していくと、スマホ・ファーストのウェブデザインが増え、それに合わせてインフォグラフィックも縦長になっていきました。
さらに、ウェブサイトに誘導して見てもらうのではなく、ソーシャルメディア上で直接見てもらう、一口サイズのインフォグラフィックやインフォグラフィック動画も生まれ、オフラインのインフォグラフィックと違った進化を遂げました。

オンラインとオフラインの違い
オフラインのインフォグラフィックの多くは、交通案内や救命具の使い方、組み立て式家具の手順書のように必要に迫られて、「見たい人が見るもの」でした。新聞や図鑑で利用されるインフォグラフィックも、もっと知識を得たいという欲求の中で、閲覧されます。
一方、オンラインのインフォグラフィックの多くは、「たくさんの人に見てもらおうとするもの」として作られています。

そのため、細かく詳細を伝えるものよりも、物事の概要を掴むのに適した内容が多いのが特徴です。これには、スマートフォンのスクリーンサイズで見るのに、細々と盛り込んだものが適していないことも影響しています。
オンライン向けのインフォグラフィックの方が文字サイズが大きい傾向があり、インフォグラフィックに使われるイラストも、百科事典や紙の新聞では写実的に描き込んだものが多いのに対し、オンライン向けでは抽象度を高めたイラストが使われがちです(※)。
※ ニューヨーク・タイムズなどの報道機関はオンラインでも詳細を伝える表現を試みており、「ビジュアル・ジャーナリズム」と呼ばれます。
*
次に、オフラインからオンラインに活用先を拡張したインフォグラフィックが、どんな用途に使われるのか見ていきます。
インフォグラフィックの使い道
インフォグラフィックの使い道は大きく、3つあります。
(1)ビジュアル・ガイド
使い方や作り方、行き方などを説明する「ガイド」にインフォグラフィックは役立ちます。オフラインでもよく使われてきた用途で、それがオンラインにも展開し、PDFやサイト上でも見れるようになっていきました。
- 説明書
- 手順書
- マニュアル
- メニュー
- 早見表
- 一覧
- 地図
- 交通案内
- 施設案内
(2)ビジュアル・プレゼンテーション
製品・サービスの紹介や、活動の取り組みを伝える「プレゼンテーション」にインフォグラフィックは役立ちます。中でもプレスリリースや、サステナビリティレポートなどの活動報告での活用に可能性があります。
- プレスリリース
- 製品・サービスの紹介
- 課題解決の仕組み
- ランディングページ
- クラウドファンディング説明
- サステナビリティレポート
- アニュアルレポート
- 統合報告書
- 調査・研究の報告
- ファクトシート
(3)ビジュアル・コンテンツ
世の中の動きや物事を解説する「コンテンツ」にインフォグラフィックは役立ちます。新聞や雑誌、図鑑などオフラインでも使われてきた用途で、それがオンラインに移行し、解説記事や動画、ソーシャルメディアなどに展開先を広げました。
- 解説記事
- 解説動画
- ソーシャルメディア
- 教育コンテンツ
- ホワイトペーパー
- 新聞・雑誌
- 書籍
- 図鑑
- 百科事典
では、こうした活用を行うのはどんな機関でしょうか。主に、メディア、企業、非営利組織、交通機関、教育機関、研究機関、行政機関などです。
特に、複雑な社会の動きを伝えるメディアや、サービスの実態が見えにくいスタートアップ、活動の理解を広げたい非営利組織に適した表現です。
その際、単発のインフォグラフィック活用にとどめるのではなく、継続的な発信を通じて、受け手との間に関係を構築していくことが大事です。
その結果、「製品・サービスの利用者になってもらう」「活動に参加してもらう」「支援してもらう」「求人に応募してもらう」といった行動に繋がります。
これは、オフラインのインフォグラフィックでは難しかったことで、オンラインならではの使い方です。オンラインのインフォグラフィックの活用領域として有望なのは、パブリック・リレーションズです。
おわりに
今回は、インフォグラフィックの使い道を見ていきました。次回は、インフォグラフィックを活用して顧客や読者と関係を築いていく上で、どんな視点を持つといいのか、信頼されるインフォグラフィックの要件を考えます。
次の記事: 信頼されるインフォグラフィックの要件
インフォグラフィックが好きに
なったら。
運営

櫻田潤
インフォグラフィック・デザイナー
インフォグラフィック専門のコンテンツレーベル「ビジュアルシンキング」運営。📚著書『たのしいインフォグラフィック入門』他