『スター・ウォーズ』歴代1位は?
インフォグラフィックでお金のデータを昔と今で比較する際、注意が必要です。物価の変動によって、昔と今でお金の価値が変わるためです。1960年の100円で買える物と、2020年の100円で買える物は違います。
たとえば、『スター・ウォーズ』はこれまで9つのエピソードが1977年から2019年にかけて公開されています。
その中で、北米(カナダとアメリカ)での興行収入が一番多いのは、エピソード7『フォースの覚醒』で、直近3作がトップ3を占めています。それに対して、初期3部作(エピソード4〜6)は下位に沈んでいます。

理由は、物価の上昇などの影響で1977年に約2ドルだった映画のチケットが、今では約9ドルになっているからです。観客数が同じくらいだったとしても、今の方がチケット価格が高いので、近作がランキング上位になります。
ではこれを「調整後データ」で見ると、どうなるでしょうか?
チケット価格を2022年の物価を基準に調整すると、エピソード4の興行収入は9作の中で一番になります。

それだけでなく、そのままの興行収入では最下位とその一つ手前だった他の初期3部作も、上位と入れ替わります。
調整前

調整後

このように、昔のデータと今のデータを比べる際は、調整せずに比較するのか、物価の変動を考慮するのかで見え方が変わります。
映画興行収入のデータベース「Box Office Mojo」では、北米の興行収入について、インフレ調整したデータと、そのままの興行収入のデータと両方を載せています。

一方、全世界の興行収入に関しては、調整前のデータしか載っていません。これは、カナダとアメリカの物価の変動を反映すればよかった北米の興行収入に対し、全世界の興行収入を調整するには各国の物価や為替を考慮しなければならないためです。
名目値と実質値
調整前データのことを「名目値」、調整後データのことを「実質値」とも言い、たとえば内閣府のサイトでは、日本の国内総生産(GDP)につて両方を公表しています。

物価調整には、「消費者物価指数(CPI:Consumer Price Index)」や「企業物価指数」「GDPデフレーター」といった指標が使われます。
それぞれ、時系列の物価の変化を測定した指標ですが、測定対象や算出方法に違いがあり、どれを使って物価調整するかによって調整後の値は変わります。
調整後データを使う時
調整前データと調整後データはどちらを使う場合もあり、いずれを使うにしても、大事なのはミスリードしないことです。
給料やガソリン代、食べ物の値段など、「昔と比べて、今はこう」と何十年も前と今とを比較して見せる際は、調整後データを使った方が実情に近いでしょう。
お金に関するデータは、「調整前データ」か「調整後データ」かに注目し、インフォグラフィックやグラフに「調整後データ」を使う場合はその旨をどこかに記載して、間違って情報が伝わらないようにします。

ソース
国民経済計算(GDP統計)(内閣府)
『主要品目の東京都区部小売価格:昭和25年(1950年)~平成22年(2010年)』(総務省統計局)
消費者物価指数に関するQ&A(総務省統計局)
物価に関する統計にはどのようなものがありますか?(日本銀行)
Domestic Movie Theatrical Market Summary 1995 to 2023(The Numbers)
From pocket change to nearly $10: The cost of a movie ticket the year you were born(USA TODAY)
GDP、実質GDP(日本銀行)
Top Lifetime Adjusted Grosses(Box Office Mojo)
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櫻田潤
インフォグラフィック・デザイナー
インフォグラフィック専門のコンテンツレーベル「ビジュアルシンキング」運営。📚著書『たのしいインフォグラフィック入門』他