インフォグラフィックの基本を学ぶシリーズ(全9回)。今回はその2番目の記事です。1番目の記事から読むにはこちらからどうぞ。
はじめに
前回の記事で、インフォグラフィックは「見えにくかった物事の関係を見てわかるようにするグラフィック表現」だと定義しました。

では、同じような役割を果たす図解やグラフ、ピクトグラム、アイコンといった表現も「インフォグラフィック」なのでしょうか。
人によっては、図解とインフォグラフィック、グラフとインフォグラフィック、ピクトグラムとインフォグラフィックをほとんど同義に使っていることもあれば、区別していることもあります。

いずれの表現も、物事を視覚的に伝達・理解できるようにするものです。したがって、広義のインフォグラフィックと呼んでも良さそうです。しかし、個別の呼び方があることからもわかるように、それぞれに特性があります。一括りで捉えるよりも、違いをふまえて使い分けできた方が良いでしょう。
そこで今回は、それぞれの表現の良いところと使い分けのポイントを見ていきます。
図解とグラフ
大まかな分類
はじめに断っておくと、図解とインフォグラフィック、グラフとインフォグラフィックの間には中間的な表現が可能なため、どこからどこまでが図解・グラフで、ここから先がインフォグラフィックというような明確な線引きはできません。

たとえば、ベーシックな円グラフをインフォグラフィックと呼ぶ人はあまりいないと思います。でも、そこにアイコンやイラストが追加されたらどうでしょうか。さらにはモーショングラフィックスで円グラフが徐々に表示されるようにしたらどうでしょうか。ビジュアルの作り込み(アニメーション含む)によって、表現の位置付けがゆらぎます。
表現にはグラデーションがあります。活用にあたって大切なのは、厳密な線引きではなく、この場合はどちらの表現に寄せた方がいいのか、どちらの特性を活かした方がいいのか、あるいは中間的なアプローチをとるのかなど目的に合わせて適切に選択できることです。
ここでは、インフォグラフィックとのアプローチの違いがわかるように、典型的な図解・グラフとして以下をイメージして話を進めます。
図解
矩形や矢印などベーシックな図形の組み合わせで定性的な情報を表現したもの。

グラフ
矩形のサイズや割合、点や線の位置などで定量的な情報を表現したもの。

インフォグラフィックと比べて、それぞれの利点はどんなところにあるでしょうか。
図解の良いところ
1.作りやすい
基本図形で作るため、デザインツールを使わずにプレゼンソフトなどで制作でき、気軽に利用できます。
2.変更しやすい
インフォグラフィックほどグラフィックが入り組んでいないため、制作が進む中でのテキストや色、配置などの変更が比較的容易にできます。
3.テンプレ化しやすい
個性的な表現を抑え、誰でも使える図形で構成されているため、汎用性が高く、テンプレート化に向いています。
グラフの良いところ
1.作りやすい
表計算ソフトなどにデータを打ち込んで生成できるため、手軽に利用できます。
2.変更しやすい
インフォグラフィックほどデータを加工していないため、データの打ち変えや色、テキストなどの変更が比較的容易にできます。
3.数字の理解に適している
棒グラフ、円グラフ、折れ線グラフなど定番のグラフはさまざまな場面で使われて普及しているため、理解の負担が少なくすみます。
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次に、図解・グラフと比べてインフォグラフィックの良さはどんなところかを見ていきます。
インフォグラフィックの良いところ
1.振り向いてもらいやすい
図解・グラフが機能的な表現なのに対し、インフォグラフィックは情緒的な面もあり、感情に訴えかけます。インフォグラフィックはビジュアルの魅力で、関心が低い人にも振り向いてもらいやすくします。

2.多彩なビジュアルで理解しやすい
内容に合ったビジュアル要素を用いることで、何をテーマにしているのかが一目でわかります。また、図解やグラフよりも表現の自由度が高いため、図解・グラフだけでは説明が難しいことも、インフォグラフィックを使うことで表現できます。

3.識別しやすい
図解・グラフはベーシックな表現ゆえに、誰が作って発信しているのか識別しづらいことがあります。それに対してインフォグラフィックは、世界観も一緒に届けることができます。

使い分けのポイント
インフォグラフィックには上に挙げた利点がある一方で、作り込みに時間がかかる、修正が大掛かりになる、作れる人が限られるなど機動力に課題があります。
なんでもインフォグラフィックにすればいいというものではなく、本当にインフォグラフィックにする必要があるのか、図解・グラフで十分ではないのかの見定めも大事です。
たとえば、社内の会議や、関心の高い人、ある程度くわしい人に向けた発信では、インフォグラフィックは過剰な表現とも受け取られます。わざわざインフォグラフィックにしなくても図解やグラフ、場合によってはテキストの箇条書きで事足ります。

インフォグラフィックでの活用
続いて、インフォグラフィック制作において、図解とグラフがどんな意味を持つのか見ていきます。
図解
図解はインフォグラフィック制作の中で思考の整理や、インフォグラフィックの部品や原型として使うことができます。

グラフ
グラフはインフォグラフィック制作の中で定量データの分析や、インフォグラフィックの部品や原型として使うことができます。

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ここまで、図解・グラフとインフォグラフィックの関係を見てきました。今度は、ピクトグラム/アイコンとインフォグラフィックの関係を見てみましょう。
ピクトグラムとアイコン
ピクトグラムもアイコンも、何かの概念や意味をグラフィックで表現して伝達する絵記号です。言葉の代替・補完に使われるほか、本来の用途とは異なりますがアイキャッチで使われることも増えています。
ピクトグラムとアイコンも名称が分かれていますが、この線引きも難しいため、大まかな分類に留めます。
ピクトグラム
交通案内や行動の指示、危険の伝達などに使われます。判断の遅れが生命の危険や行動の分かれ道になるため、急いでいる時にパッと意味が明確にわかること、遠くから識別できること、どの場面でも同じ意味に対して同じ記号が使われていることが重要です。そのため、形状や色づかいに制約があり、情報の伝達に重きを置いた機能的なデザインとなっています。

アイコン
ピクトグラムの用途が機器のボタンや、ウェブサイトやスマートフォンのインタフェース、プレゼンスライド用の画像などに拡張するに連れ、従来の機能的な役割以外にコミュニケーションの側面も加わっていきました。
ピクトグラムよりも表現の自由度が増し、「使っていて楽しい」、「見た目がクール」といった情緒的な価値も持つようになりました。

インフォグラフィックでの活用
ピクトグラムとアイコンは、自転車の記号であれば駐輪場、虫眼鏡であれば検索といったように、それぞれが一つの意味=情報を示します。そのため、複数を並べると意味の違いが表現できることから、インフォグラフィックの部品に適しています。

おわりに
今回、インフォグラフィックとその仲間たちの表現の特性を見ていきました。
次回は、今回の内容を踏まえて、インフォグラフィックの価値を2つの側面からまとめます。
次の記事:インフォグラフィックの価値
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櫻田潤
インフォグラフィック・デザイナー
インフォグラフィック専門のコンテンツレーベル「ビジュアルシンキング」運営。📚著書『たのしいインフォグラフィック入門』他