
情報の理解と伝達のためのグラフィック
インフォメーション × グラフィック
インフォグラフィックとは、「インフォメーション」と「グラフィック」を組み合わせた造語で、情報を理解・伝達するためのグラフィック表現のことです。

たとえば、電車の路線図や組み立て式家具の説明書が身近な例です。
もともと学術研究や統計、雑誌や新聞、図鑑、説明書、街の案内や博物館の解説などオフラインを中心に用いられてきましたが、2010年頃からオンラインでの活用が増えました。

2010年前後は、FacebookやTwitter、YouTubeが台頭してきた時期であり、InstagramやPinterest、Snapchatといったビジュアル主体のソーシャル・ネットワークが誕生した時期とも重なります。
2010年頃を潮目に、ビジュアルを使った情報コミュニケーションが広まったことで、主にコンテンツマーケティングの文脈からインフォグラフィックが注目を集めるようになりました。

たとえば、インフォグラフィック画像の共有サイトとしてスタートし、後にインフォグラフィックを活用したい人と作り手をつなぐマッチングサービスへと進化した「Visual.ly」がローンチしたのも、2011年でした。

さらに、オバマ政権時代のホワイトハウスでもインフォグラフィックが活用されるなど、オンラインにおける情報発信手段のひとつとして、定着していきました。

それからもう一つ、SNSと並んで影響したトレンドが、ビッグデータです。
データをそのままの状態で見せても理解できる人、興味を持つ人は限られます。発信者はデータを情報に変えて、届ける必要が出てきました。
データと情報の関係とは?
情報とは、データに関連付け・意味付けを加えたものです。

語源に従えば、「Information」には、「form(形・構造)」という言葉が隠れています。

インフォグラフィックは、データや物事の関係性を、目に見える「形・構造」にして提示するグラフィックです。
インフォグラフィック化することによって、それまでは見えにくかったストーリーや事実関係を浮かび上がらせて、気づきを与えたり、アクションに繋げるのに使います。
いろいろなグラフィック表現がある中で、インフォグラフィックの頭にわざわざ “インフォ”とあるのは、情報に特化したグラフィック表現であり、資料としての保存価値・共有価値があるからです。
図解とインフォグラフィック
図解は、広義のインフォグラフィックに含まれます。
あえて名称を分けて使う場合は、僕は「図解=ベーシックな矩形とテキストで出来上がっているもの」、それに対し、「インフォグラフィック=グラフィック表現の幅が広いもの」として呼び分けています。

出来上がったものを見る人は、いちいち「これは図解、これはインフォグラフィック」と違いを考える必要はありません。
また、どこからどこまでが図解、どこからがインフォグラフィックというように、明確に線引きができるものではないので、厳密に呼び方にこだわることに意味はありません。
けれども作り手は、表現にどれだけ時間を掛けるか決める上で、どちらのアプローチに近づけるかを意識して作ります。
その際に考慮するポイントは、情報の入口の高さ、広さをどう設計するかです。
図解は、もともとその情報について興味を持っている人に向けて説明するのに適しています。それに対し、インフォグラフィックは、図解では振り向いてくれなかった人も振り向かせる力があります。

したがって、少人数の会議資料であったり、多くの人が興味を持つ内容を説明するのであれば、図解で事足ります。
どんな情報がインフォグラフィックに適しているか
では続いて、どんな情報がインフォグラフィックに向いているのか、考えてみましょう。
テキストや他の表現では量が多くなってしまうもの、事実関係が見えにくいもの、専門的で初心者にはハードルが高く感じられるものなど、情報の圧縮が必要だったり、見える化や敷居を下げる努力が必要な場合にインフォグラフィックは適しています。
たとえば、路線図は情報の圧縮力が高い表現です。
乗り換えや路線を言葉や文字だけで伝えようとすると、骨が折れますが、路線図を使って説明すれば楽です。

このように、グラフィック表現によって、情報が圧縮されるかどうかが、インフォグラフィック化するかの判断基準のひとつになります。
それからそれ以外には、興味関心を広げられるかという視点もあります。
たとえば、情報が箇条書きで書かれているのと、そこにアイコンを加えたのでは、後者の方が要素が増えていて、情報圧縮が成立しているとは言えません。

でも、グラフィックが追加されたことで情報に興味を持つ人が増えるのであれば、その要素には意味があります。
情報を圧縮するにせよ、グラフィック要素で興味関心を高めるにせよ、重要なことは、なんでもかんでもビジュアルにするのではなく、情報伝達にとって本当に意味のある表現を選択することです。
使う理由が説明できないグラフィック要素を使ってはいけません。
良いインフォグラフィックの条件
では、ここまでの話を踏まえて、良いインフォグラフィックとはどんなインフォグラフィックでしょうか。
僕が思う良いインフォグラフィックの条件を5つにまとめました。
(1)データや物事の関係性をクリアにしていること
(2)資料としての保存価値・共有価値が高いこと
(3)情報が圧縮されていること
(4)一つ一つのグラフィック要素に意味があること
(5)興味のない人にも届く越境力があること
2010年代のインフォグラフィック活用は、コンテンツマーケティングとビジュアルジャーナリズム、データのダッシュボードが主用途でした。
この背景には、SNSの台頭とデータ爆発・情報爆発がありました。これまで、インフォグラフィックは社会の変化に合わせて、用途を変化させてきました。
2020年代は、次の段階として、社会課題の解決や、企業や組織の透明性向上、個人の価値観を示すことなどの用途で、活用が進むのではないかと僕は考えています。
著者

櫻田潤
インフォグラフィック・エディター
情報の理解と伝達にビジュアルを活用することに取り組んでいます。
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