インフォグラフィックの基本を全9回で解説します。今回はその第1回です。
頭に“info”と付くのはなぜか?
インフォグラフィックは、「information」と「graphic」を組み合わせた言葉です。文字通りであれば、「情報」を「視覚的に表現」したものとなりますが、その定義だと他のグラフィック表現との違いがはっきりしません。
名刺やチラシ、パッケージ、ポスター、バナーなども、視覚的に情報を伝えるものですし、さらに広げれば、イラストや漫画、写真、映像といった表現手法にも、同じことが言えます。
したがって、情報を扱うグラフィック表現は、インフォグラフィック固有のものではありません。にも関わらず、インフォグラフィックだけ、「情報」を強調して“info”と頭に付けるのはなぜでしょうか?

この問いに答えられないと、どういう表現をインフォグラフィックと呼んで、どういう時には呼ばないのか判断がつきません。
そこで、この答えを探るために、身近なインフォグラフィックのひとつ「路線図」を例に考えてみましょう。

路線図は、電車の利用者が目的地に着くまでの方法を知るために使います。それには、単に個々の駅の情報、路線の情報を提示するだけでは不十分です。どこで乗り換えたらいいのか、どれくらいで到着するのかなどを伝えるには、様々な情報の関係で捉える必要があります。
「路線図」が表現しているのは、駅と駅の関係、駅と路線の関係、路線同士の関係、現在地と目的地の関係といった「情報の関係」です。

このように、「情報の関係」を視覚的にわかるようにすることが、インフォグラフィックをインフォグラフィックたらしめます。
路線図インフォグラフィックが、単に「情報」をビジュアル表現するのではなく、構造やつながり、変化といった「情報の関係」を表現している点がポイントです。

でも、こんな疑問を持つ人もいるんじゃないでしょうか。「情報の関係」を視覚的に表現するものと言うけれど、それもまた他のグラフィック表現であっても言えることじゃないの?と。
たとえば、名刺のデザインをする際にデザイナーは、名前や肩書き、所属、住所などの要素の関係を意識して、レイアウトしたり、大きさを決めます。

ただ、その一方で、完成したグラフィックから情報の受け手がそういった関係をひとつひとつ意識するかというとそうではありません。デザイナーの意図に沿って、感覚的に情報の関係を掴んでいきます。したがって、インフォグラフィックのように、「情報の関係」を中心にした表現とはなっていません。

それに対してインフォグラフィックの場合は、情報の受け手にも明示的に関係がわかる状態で届けます。情報の受け手もそれを望んでいて、作り手の意図と受け手の欲求が一致しています。

インフォグラフィックと他のグラフィック表現の違いは、「情報の関係」を明示的にグラフィックに落とし込んでいるかです。作り手も受け手も「情報の関係」に着目しているのが特徴です。
インフォグラフィックは、「情報の関係」を視覚化することで、複雑に思えたことや、気が付かないようなこと、気にした方がよいことなどにアクセスしやすくします。インフォグラフィックを見て「わかりやすい」と感じるのは、よくわからなかった物事の関係がクリアになったと感じるからです。

これで“info”部分の深掘りができました。ではそろそろ、インフォグラフィックとは何か、あらためて定義してみます。
インフォグラフィックとは
インフォグラフィックは、「情報の関係」に見た目(形)を与え、見えにくかった物事の関係を見てわかるようにするグラフィック表現です。

イラストやグラフ、テキスト、数字などを組み合わせて、視覚的に「情報の関係」を表現します。

目にしたグラフィック、作っているグラフィックが、インフォグラフィックと呼ぶものか迷ったら、「情報の関係」を表現したものかをチェックします。そのグラフィックを見て、「これは●●と●●の関係を表している」と言えるかどうかを判断基準にするとよいでしょう。
たとえば──
(1)関ヶ原の戦いの力関係を表現
関ヶ原の戦いの兵力を、『日本の戦史 関ヶ原の役』(陸軍参謀本部編纂)を元データにインフォグラフィック化



(2)映画の人間関係を表現
レオナルド・ディカプリオ主演の映画『華麗なるギャツビー』の登場人物の関係をインフォグラフィック化



(3)温室効果ガスと温暖化の関係を表現
温室効果ガスが地球温暖化を招く仕組みをインフォグラフィック化



おわりに
今回は、インフォグラフィックとは何か。他のグラフィック表現との違いを見ていきました。
次回は、「情報の関係」を視覚化するという点でインフォグラフィックと似た役割を果たす図解やグラフとインフォグラフィックの違いを考えていきます。
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運営

櫻田潤
インフォグラフィック・デザイナー
インフォグラフィック専門のコンテンツレーベル「ビジュアルシンキング」運営。📚著書『たのしいインフォグラフィック入門』他