ラ・リーガ:声を一つにして人種差別と戦う

度重なる人種差別

3月21日は「国際人種差別撤廃デー」だということで、ラ・リーガが3年連続となる人種差別撤廃キャンペーン(3月14日〜21日)を行うとリリースがありました。

ラ・リーガ 人種差別撤廃 VS RACISM

人種差別撤廃デーは、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)時代の出来事に由来しています。1960年、黒人へ身分証明の常時携帯を義務付ける法案通過があった際、反対する平和的デモがありました。それに警察が発砲し、69名が亡くなった事件(シャープビル虐殺事件)の起きた日としてこの日に定められています。

サッカーにおける人種差別と言えば、今年1月のアジアカップで日本代表の鈴木彩艶選手に対し、ソーシャルメディア上で差別的発言がありました。

一方、ラ・リーガでは、レアル・マドリードのヴィニシウス選手への人種差別的行為が度々取り上げられています。たとえば昨年10月、23/24シーズン第10節セビージャ戦では子どもによる差別があったことが明らかになっています。

これに対して、ヴィニシウス選手は以下のメッセージを出しました。

スペインサッカー界にとってまたもや悲しいできごとがありました。迅速に行動し、制裁を下したセビージャを祝したい。

残念なことに、今週土曜日の試合で別の人種差別主義者のビデオを見たところ、今度は女の子によるものでした。彼女を教育する人が誰もいなかったのは残念なことです。様々な考え方を持つ市民を形成するために、僕はブラジルの教育にたくさんの投資をしています。

今日の人種差別主義者の顔は、他の多くのケースと同じように、ウェブサイトに貼り出されている。スペイン当局がその役割を果たし、きっぱりと法改正してくれることを願います(※1)。これらの人々も、刑事罰を受けなければなりません。

それは2030年のワールドカップに向けた素晴らしい一歩になるでしょう(※2)。僕はその力になるよ。繰り返しで申し訳ないけれど、これは19回目のできごとなんだ。そして、これからもその数は増えていく…

ヴィニシウス選手に対する差別行為はその後も続いていて、今月15日にレアル・マドリードは、チャンピオンズリーグのバルセロナ対ナポリ、アトレティコ・マドリード対インテルの試合前に(そこにいないにも関わらず)差別行為があったとして告訴状を提出したと声明を出しています。

それから別の話として、レアル・マドリードの公式Instagramの投稿が問題になりました。この投稿はすでに削除されていますが、投稿内容はレアルのエンブレムにヴィニシウス選手がキスする写真の下にイスラエル出身の音楽グループ「Vini Vici(ヴィニ・ヴィチ)」のロゴが加えられたもの。Vini Viciのロゴは、類人猿から人類への進化の5段階がモチーフになっていて、そこにまったく必要のないものでした。

Vini Vici

この件は、選手を守るはずのクラブが行ったことという点で、ナポリが公式TikTokでオシムヘン選手を嘲笑する動画を投稿した件と似ています。

ヴィニシウス選手、オシムヘン選手ともに実力と知名度の高い選手ですが、個人だけで人種差別やヘイトに対抗することはできません。リーグ、クラブのアプローチは絶対的に必要です。

1voiceVSRACISMとは

そこで気になったので、冒頭で紹介したラ・リーガの人種差別撤廃キャンペーンの内容を調べてみました。人種差別撤廃の重要性への認識を高めることを目的にしたもので、コンセプトは「1voiceVSRACISM(声を一つにして人種差別と戦う)」。

ラ・リーガのリリースによれば、今回のキャンペーンに向けて新しくアンセムを用意した他、前回のキャンペーン(UNITY)に引き続いてスペインのアートグループ Boa Mistura(ボア・ミストゥーラ)によるビジュアルイメージでの訴求を行うとあります。

キャンペーンなのでこういうアプローチになるよなって思いながらアンセム(「HAY UN COLOR」)を聞いてみたところ、これが想像以上に良くて、歌詞と映像は、異なるチーム、異なる属性の人たちの団結を示し、毅然とした態度と力強さを感じさせるものでした。

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続いて、ビジュアルを見ていきます。こちらは強さと多様性を色で表現。色の重なりは団結を、色の相互作用によって健全な共存と互いの尊重を表しています。このビジュアルは、選手が入場時に着用するキットやボール、キャプテンの腕章、看板などに展開されます。

ラ・リーガ 人種差別撤廃 VS RACISM

興味深いのは、ラ・リーガのスポンサーEA SPORTSのゲーム「FC 24」内でもこのキットを選手が着用できる点。この取り組みは昨シーズンも実施していて、ラ・リーガだけでなく、プレミアリーグ、ブンデスリーガ、セリエA、リーグ・アンとも行われたようです。

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「1voiceVSRACISM」キャンペーンは、「VS RACISM」と呼ぶ取り組みの一つで、その大枠には「LALIGA VS」と呼ばれるプラットフォーム──人種差別に限らず、同性愛嫌悪、いじめ、その他あらゆる暴力などヘイトを増長する差別的行為に終止符を打つため戦う──があります。

ラ・リーガ 人種差別撤廃

ヘイトをモニタリング

「LALIGA VS」ではたとえば、ヘイトに遭遇した際の通報フローを明確にしたり、ソーシャルネットワーク上のヘイトをモニタリングすることもしています。

このプロジェクトは「MOOD(Monitor for the Observation of Hate in Sport :スポーツにおけるヘイトのモニタリング)」というもので、2023年9月にリリースされました。

言語解析を行うSéntisis Intelligence(センティシス・インテリジェンス)とコミュニケーションを専門とするGroupM(グループエム)、ラ・リーガの共同プロジェクトで、ソーシャルネットワーク上で起きているヘイトをスコア化し、誰にでも見える形で週次レポートしています。

ラ・リーガ ヘイトのモニタリング

レポート内容

  • ヘイトスコア:試合前後のソーシャルメディアにおける暴力的言説の度合いを1から10までのスコアで測定。数値が高いほどヘイトレベルが高い
  • 言及:試合日のソーシャルネットワーク上の言及数
  • ユーザー:それらの言及をポストしたユニークユーザー数

キャンペーンはキャンペーンとして、このようにヘイトを数値で測定することは、状況把握と取り組み成果を見ていく上で重要です。

※1 ラ・リーガは2023年、暴力、人種差別、外国人排斥、不寛容などに対する制裁を強めるように法改正を求めている(現状、差別的行為の特定はしても、制裁や有罪判決は下されない)。ちなみに、ヴィニシウス選手の故郷ブラジルでは昨年、リオデジャネイロ州政府が「Vinicius Junior law(ヴィニシウス・ジュニオール法)」を制定。この法律によって、人種差別的行為があったスポーツイベントは、中断または中止されるようになった。
※2 2030年ワールドカップは、スペイン、ポルトガル、モロッコの共催。さらに開幕3試合はアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイで実施と3大陸6カ国にまたがる大会になる予定(2024年のFIFA総会の決議で正式決定する)

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コンテンツのソース

Brazil state approves new ‘Vinicius Junior law’ to combat racism at sporting events(ESPN)
EA SPORTS™ Stands With Its Football League Partners in the Fight to End Racism and Discrimination on and off the Pitch(Electronic Arts)
International Day for the Elimination of Racial Discrimination, 21 March(United Nations)
LaLiga calls for sanctioning powers to fight racism more effectively(LALIGA)
LALIGA continues the fight against racism with ‘VS RACISM’(LALIGA)
LALIGA presents M.O.O.D, a system for monitoring hate on social media(LALIGA)
La Liga: United against racism and hatred(FIFA)
Real Madrid Instagram ‘error’ adds to Vinicius Junior’s frustrations over tackling racist abuse(The Athletic)
Rio government names anti-racism law after Vinicius Jr(Reuters)
The making of ‘1voiceVSRACISM’, the anthem created by Little Spain and LALIGA to fight racism(LALIGA)
The second LaLiga Against Racism Week gets underway(LALIGA)
VINICIUS JUNIOR ISSUES IMPASSIONED STATEMENT AFTER RACIST INCIDENT AT SEVILLA-REAL MADRID MATCH(OneFootball)
2030 FIFAワールドカップについて知っておくべき全てのこと(FIFA)
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公式声明:ヴィニシウスに対する人種差別を告訴(レアル・マドリード)
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南ア、アパルトヘイトの虐殺事件から50年(AFPBB News)
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