サッカー界におけるサステナビリティのパイオニア

サッカークラブ初のB Corp取得

アジアカップを戦うサッカー日本代表の町田浩樹選手が所属するベルギー1部リーグのロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズが、B Corp取得を発表しました。

ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ B Corp 取得

B Corpは、環境や社会に配慮にした公益性の高い企業に与えられる国際的な認証で、パタゴニアやクリーンカンティーン、ベン&ジェリーズ、ダノン、オールバーズといった企業が取得しています。

アメリカの非営利組織 B Labが2007年にスタートしたこの認証制度の取得ハードルは高く、環境や社会に対する取り組みを評価する測定基準「Bインパクトアセスメント」で80点以上を取ること(一般的な企業のスコア中央値は50.9点)、ステークホルダーへの説明責任を果たすこと、測定結果を公開することが条件です。

それでも本稿執筆時点で7800社以上が取得しており、取得企業の産業、業種、国・地域は多岐にわたっています。では、サッカークラブのB Corp取得状況はどうかというと、イングランド4部のウィンブルドンやグリムズビー・タウン、イングランドの女子リーグ5部ウスター・シティ・ウィメン、ウェールズ1部のハーバーフォードウェスト・カウンティなどが取得を目指していることを発表していますが、取得済となると今回紹介するベルギー1部のロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズだけのようです。

オーナーはあの人

ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズは1897年に設立されたクラブで、これまで国内リーグの優勝11回。これは、アンデルレヒト(34回)、クラブ・ブルッヘ(18回)に次ぐ3番目。でも栄光は過去のもの。最後に優勝したのは1935年で、その後は4部降格も経験しています。1部リーグには長い間、縁遠く、21/22シーズンに48年ぶりの復帰を果たしました。

ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ

そこからのロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズの復活劇は目覚ましく、1部昇格初年度にレギュラーシーズンを1位でフィニッシュ(惜しくもプレーオフで優勝は逃した)すると、翌22/23シーズンは3位、今シーズン(23/24)も首位を走っています。

この見事な再生を語る上で欠かせないのが、トニー・ブルーム(Tony Bloom)氏の存在です。プロ・ギャンブラーとして名を成し、2006年にスポーツ・ベッティングのアドバイスを行うコンサルティング会社「スターリザード」を創業。社名の「リザード」は、ポーカーテーブルでの彼のあだ名「トカゲ」から。ギャンブルでの彼は、「cold-blooded(血も涙もない)」だそう。

ブライトン オーナー トニー・ブルーム

そんな“リザード”ことブルーム氏は2009年に、イングランドのブライトン&ホーヴ・アルビオンを買収。ブライトンは17/18シーズンにプレミアリーグに昇格すると、数年で上位争いに欠かせない存在になりました。その立役者の一人、三苫薫選手が21/22シーズンにローン移籍していた先が、B Corpを取得したロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズです。

というのも、ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズのオーナーもまたブルーム氏で、2018年にクラブを買収しています。そして共同オーナー兼会長には、長年の友人アレックス・ムジオ(Alex Muzio)氏がなりました。

B Corp取得へ

The Athleticの記事によれば、彼らが買収した時、平均観客動員数は1500人で、クラブの練習場にはトイレも設備もなく、選手はシャワーを浴びるには一度スタジアムまで車を走らせる必要があったとあります。同記事に、B Corp取得につながる話も出ていて、ムジオ氏は「現在サステナビリティ専任のフルタイムスタッフが1.5人いて、EUで最も環境に配慮したクラブになりたい」と語っています。

これが2021年3月の記事で、同年4月、デロイトや欧州委員会、マッキンゼーでキャリアを積んできたラファエル・モーレマンス(Raphaële Moeremans)氏をサステナビリティ責任者に招いています。

これらの動きから、ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズをサステナビリティに配慮したクラブにしようとする考えは買収時もしくは買収後のかなり早い時期からあったんじゃないかと思います。

それを裏付けるように、2021年にはすでにいくつかの取り組みが形になっています。

  • スタジアムの電気とガスについて、再生可能エネルギー企業エネコ社と提携(なお、エネコ社は2020年に三菱商事に買収されている)
  • スタジアムで使用する清掃用品について、環境に配慮する地元の家族企業エコ・マルチ社と提携
  • コカ・コーラと提携し、スタジアムにリサイクルステーションを設置
  • スタジアムやイベントでは、再生プラスチック製の再利用可能なエコ・カップを提供。カップをバーに返却すると、1ユーロ払い戻しされる
  • 試合日にはヴィーガン・バーガーを提供
  • ザ・グッド・ロール社と提携し、塩素、着色料、香料不使用、リサイクル100%のトイレットペーパーとおしぼりを提供
  • エコライン社と提携し、環境に配慮したトイレットペーパー、ハンドタオル、ソープディスペンサーを提供
  • 印刷用紙について、ペーパーワイズ社と提携し、農業廃棄物を利用した紙を使用
  • 樹木保護のため、紙チケットではなく、電子チケットを推奨
  • スタジアムの駐輪場を増やし、自転車での来場を推奨。他の選択肢として徒歩、カーシェアリング、公共交通機関の利用も推奨

B Corp取得には2年かかったとリリース記事にあるので、この頃から取得に向けて動いていたことになります。B Corpの測定範囲は環境だけでなく、企業ガバナンスや労働環境、コミュニティとの関係、顧客対応など様々な領域にまたがるため、この間、チームの立て直しと合わせてこれらの整備が並行で行われていたことに驚きます。

ブライトン ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ

B Corpは取得していませんが、ブライトンもサステナビリティへの取り組みは評価されていて、「フットボール・ビジネス・アワード 2023」のサステナビリティ部門でシルバーを受賞しています(ちなみに、ゴールド受賞はリヴァプール)。

データを拠り所に、優秀な選手やスタッフを見つけ、クラブを再生に導いてきたギャンブラーのトム・ブルーム氏。買収した2クラブでの積極的なサステナビリティへの投資は、勝算あってのことでしょう。

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櫻田潤

インフォグラフィック・デザイナー

インフォグラフィック専門のコンテンツレーベル「ビジュアルシンキング」運営。著書『たのしいインフォグラフィック入門』


コンテンツのソース

A ground-breaking plan for B Corp certification(AFC Wimbledon)
BELGIAN PRO LEAGUE’S UNION SAINT-GILLOISE TAKES CENTRE STAGE WITH ECO-RESPONSIBILITY INITIATIVES(European Football for Development Network)
B Lab Global Site
Club History(Royale Union Saint-Gilloise)
Club’s sustainability work recognised(Brighton & Hove Albion)
Football clubs should stand for something, and at Grimsby we’re aiming high(The Guardian)
“FOOTBALL HAS TO REPRESENT SOMETHING BIGGER”: GRIMSBY TOWN’S NEW OWNERS SET THE STANDARDS(GAISF)
Haverfordwest County complete first phase of B-Corp certification(Haverfordwest County AFC)
How Brighton lost 30 key staff members – and got even better(The Athletic)
ROYALE UNION SAINT-GILLOISE – THE BELGIAN FOOTBALL CLUB THAT IS BECOMING GREEN(Sport Positive)
Statement president and owner Alex Muzio(Royale Union Saint-Gilloise)
The Club(Worcester City Women Football Club)
The story of Brighton & Hove Albion FC owner Tony Bloom, Britain’s most successful gambler – and the secretive company that helps him win(Business Insider)
The Tony Bloom story(The Athletic)
Union is B Corp(Royale Union Saint-Gilloise)
Union Saint-Gilloise: the Belgian club Brighton owner Bloom is helping back to the top(The Athletic)
2023 FOOTBALL BUSINESS AWARDS WINNERS(Football Business Awards)
オランダ総合エネルギー事業会社Eneco社の買収(三菱商事)
三苫薫在籍ブライトンのオーナー、トニー・ブルーム氏(Transfermarkt)