「No Room for Racism」の始まり
プレミアリーグの人種差別反対の取り組み「No Room for Racism(人種差別に余地なし)」がスタートして5年が経ちました。
今ではキャンペーンを象徴する白と黒のデザインは、看板やユニフォームのパッチ、配信時のアニメーションなどでお馴染みです。キャンペーンを手がけたNOMADによれば、このデザインには、人種差別の闘いに白黒をつけるという意味が込められていて、黒と白の色の構成は、カラフルで鮮やかな配色が多いプレミアリーグのクリエイティブの中で際立ちます。
でもこのようになったのは近年で、もともとプレミアリーグの人種差別の取り組みは、非営利組織「Kick It Out」とのパートナーシップで進められてきました。Kick It Outは、その前身となる「Let’s Kick Racism Out Of Football」がプレミアリーグ発足の翌年1993年に設立されたのが始まりです。この組織は、プレミアリーグやFA(サッカー協会)、PFA(プロサッカー選手協会)の資金提供を受けて、スタートしました。
以来、25年にわたってプレミアリーグはKick It Outと取り組んできましたが、2019年に「No Room for Racism」のスローガンを掲げ、プレミアリーグ主導で人種差別に取り組むようになりました。
この転換にあたっては、Kick It Outにプレミアリーグから事前に相談がなかったという話がThe Guardianの記事にあり、混乱を伴ったことが紹介されています。
プレミアリーグは、2016年にブランドを刷新し、ピッチ内外でメッセージやイメージを統一して、ブランド価値を高める動きがありました。ブランド戦略を見直す中で、人種差別への取り組みも、自分たち主導のアクションに位置付けた方がよいと考えたのかもしれません。
プレミアリーグとKick It Outのパートナーシップは今も続いていますが、人種差別への取り組みは「No Room for Racism」の旗印のもと、リーグ、クラブ一体となって行われるようになりました。
そんな「No Room for Racism」キャンペーンの存在感が増したのは、2020年のこと。パンデミックで無観客試合が行われる中で、キックオフ前に主審の笛で選手たちが片膝をつくポーズをとるようになりました。これは、アメリカで起きたジョージ・フロイドさんの事件の後に広がった「Black Lives Matter」を支持するものでした。
20/21シーズン、21/22シーズンでは全試合で行われましたが、次第に形だけのパフォーマンスになっていることに反対して膝つきをあえてしない選手も現れ、22/23シーズン以降は特別な試合に限って行われるようになりました。
今月の6日〜15日の試合がそれで、キックオフ前に膝つきが行われました。さらに、試合に先駆けて4月5日に「No Room for Racism」の進捗報告がありました。
2019年に「No Room for Racism」キャンペーンが始まった後、2年後の2021年にプレミアリーグは「No Room for Racism」のアクションプランを発表し、それから1年ごとに進捗を報告しています。
「No Room for Racism」の6つの柱
「No Room for Racism」のアクションプランは6つの柱で構成されています。
(1)人種差別反対のアクション
- 「No Room for Racism」の広報活動の継続
- オンライン通報の仕組み提供
- クラブ、Kick It Out、FA(サッカー協会)、警察、その他当局との連携
など
(2)コーチのキャリアパス開発
- コーチ育成プログラムとライセンス取得コースにダイバーシティの目標を設定
- 黒人やアジア、少数民族出身の元選手や女性向けにコーチ育成プログラムと雇用機会を提供
など
(3)エグゼクティブの多様化
- 2026年7月末までに、プレミアリーグの取締役のうち、女性を2人以上、黒人、アジア、少数民族出身者を1人以上に
- 2026年7月末までにプレミアリーグの従業員のうち、女性を42%以上、黒人、アジア、少数民族出身者を18%以上に
など
(4)選手・関係者のキャリアパス開発
- アカデミーで南アジア系の選手が過小評価されていることに対処するため、Kick it Outと「South Asian Action Plan」立ち上げ
- 女子サッカー選手育成のため、「Girls’ Emerging Talent Centres」を設立
- 多様な背景を持つ審判を増やすため、「Elite Referee Development Plan」立ち上げ
など
(5)コミュニティの支援
- クラブのコミュニティ組織を支援
- サッカーを通じて若者の成長支援を行う「Premier League Kicks」プログラムを運営
- 学校に「No Room for Racism」の教育資料を無償提供
など
(6)EDIの浸透
- クラブに明確なダイバーシティ目標とその達成方法に関するガイダンスを提供
- プレミアリーグは、EYの「National Equality Standard」の要件を満たすことを約束
など
では、こうしたアクションが進む中で、人種差別の状況はどうなっているかと言うと、今も人種差別に遭う選手は後を断ちません。
Kick It Outは、年次で人種差別の報告件数を発表していますが、その数字も年々増えています。
ただ、この数字は、被害そのものの増加を示すものではなく、通報数である点に注意が必要です。以前よりも通報する人が増えた結果とも取れるため、増加=悪い傾向とは言い切れません。
これまで見過ごされてきたことが、報告されるようになってきているのであれば、プレミアリーグやKick It Outが取り組んできたことの成果とも言えます。
ソース
Annual Report(Kick It Out)
How the Premier League continues to fight racism(Premier League)
Kick It Out 25th anniversary: Lord Ouseley on the racism he faced(BBC)
League and Kick It Out launch South Asian Action Plan(Premier League)
No Room For Racism: Premier League launches new phase of campaign(Sky Sports)
PGMOL and the FA create new development programme for diverse officials(The Football Association)
Premier League(Robin Brand Consultants)
Premier League Brand Refresh(Robin Brand Consultants)
Premier League No Room For Racism Action Plan Commitments(Premier League)
Premier League risks Kick It Out confusion with ‘No Room for Racism’ campaign(The Guardian)
Premier League “No Room For Racism” Campaign for Equality by Nomad(NOMAD)
Premier League: Rebranding the world’s most loved football league(DeisignStudio)
Three-year progress update on No Room For Racism Action Plan(Premier League)
What is Kick It Out? The charity battling racism in football(GOAL)
オンライン上での選手への侮辱行為を受けてのユナイテッドの声明(マンチェスター・ユナイテッド)
海外サッカー各リーグのコロナ対応まとめ:再開・中止を決めたリーグは?(olympics.com)
パレスFWが試合前に膝つきせず プレミア選手で初(AFPBB News)
プレミアが選手の膝つき支持を表明、「黒人の命は大切」ユニ着用も(AFPBB News)
プレミアリーグ、全試合での膝つき抗議を廃止(AFPBB News)
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櫻田潤
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