ノリッジ:注目を集めたメンタルヘルスケア啓発ビデオ

フットボール・ビジネス・アワード受賞

サッカークラブをビジネスと社会の視点から評価する「フットボール・ビジネス・アワード2024」の結果が発表されました。

フットボール・ビジネス・アワード

審査員は、イングランドのサッカークラブのCEOを中心に、プロサッカー協会、非営利組織「Kick It Out」の会長などで構成され、アワードは2012年に始まりました。

今年のアワードには、イノベーション、サステナビリティ、ウィメン・フットボール・ビジネス、EDI(EQUALITY, DIVERSITY & INCLUSION)など20部門があり、たとえば三苫選手が所属するブライトンはサステナビリティ部門を受賞しています。

各部門の内容を見ていく中で、特に気になったのがベスト・マーケティング・キャンペーンに選ばれたノリッジ・シティ(イングランド2部リーグ所属)の取り組みです。

ノリッジ・シティ フットボール・ビジネス・アワード ベスト・マーケティング・キャンペーン受賞

受賞したのは2023年10月10日の「世界メンタルヘルスデー」に向けたキャンペーン。サッカーを通じて、メンタルヘルスケアの啓発を行うものでした。

どんなキャンペーン?

ハッシュタグは「#YouAreNotAlone(あなたは独りじゃない)」で、ノリッジがインハウスで制作したビデオが、総再生数1.4億回以上、150カ国で視聴されて、注目を集めました。

ノリッジの発表によれば、シーズンチケット保有者の平均年齢は、自ら命を絶つ可能性が最も高い年齢層と重なるそうで、ビデオは、まさにその年代にあたる2人のサッカーファンが主役です。

2人がスタンドでノリッジの試合を観戦する日々を映したもので、一人は試合中いつも静かで、感情の変化が見られません。それに対してもう一人は、立ち上がったり、叫んだり、頭を抱えたり、笑ったり、感情表現が豊かです。そんな2人に何が起きるのか、2分強なのでまずはビデオをご覧ください。

一見、メンタルが不調なのは左の男性のように見えますが、実は右の男性で、途中、笑いながらこんなセリフ──Well, I hope things are better outside of the football(サッカー以外のことが良くなるといいんだけどね)──があって、何か問題を抱えていることを示唆しています。

その後、右の男性は観戦に現れなくなり、亡くなったことが暗示されます。そしてビデオは、次のメッセージで締めくくられます「誰かが苦しんでいるのが明らかでも、その兆候を見つけにくいこともある。あなたの周りをチェックしてみよう」。

このビデオは、キャンペーンを構成する一つで、他にも2つの取り組みがありました。


チャリティ企画

ノリッジはユニフォーム・スポンサーの協力を得て、イギリスの慈善団体「Samaritans(サマリタンズ)」にユニフォームの胸や袖、背中のスポンサー枠を提供しました。このユニフォームは、男子チームの試合、女子チームのウォーミングアップで着用され、サイン入りでチャリティ・オークションにかけられて、その売上はサマリタンズに寄付されました。

ノリッジ・シティがユニフォームをチャリティ・オークション

サマリタンズは、1953年に設立され、困難な時期を過ごしている人の相談を24時間365日受け付けています。1978年、『関西いのちの電話』で活動していた西原由記子さんがサマリタンズを知り、日本にも自殺防止センターが作られるようになったそうです。


他チームとの連動企画

それから、ノリッジ主導でチャンピオンシップ(イングランド2部リーグ)の全クラブが連動して、架空の先発メンバー表を作り、ソーシャルメディアで展開しました。このメンバー表には、選手の名前の代わりに、MUM、DAD、PARTNER、BEST FRIENDなど身の回りの人たちのことが書いてあり、家族や周囲との絆を確認するものになっています。

ノリッジのメンタルヘルスケア啓発キャンペーン

ちなみに

プレミアリーグが委託した調査(*1)によると、ファンの84%がサッカーが会話のきっかけになると考え、82%がメンタルヘルスについて話しやすくなり、実際に3人に2人(68%)の人がサッカーで会う友人に自分のメンタルヘルスについて話すと答えたとありました(18~34歳の若い男性に限ると、83%)。

3人に2人

また、別の調査(*2)では、サッカーファンの67%が自分のメンタルヘルスに悩んだことがある一方で、3人に1人はそのことを誰にも話したことがないというものもありました。

こうした調査結果をふまえて、前述のサマリタンズは、プレミアリーグのチェルシーと一緒に、「Talk More Than Football」キャンペーンを行い、サッカーファンに家族や友人と自分のメンタルについてもっと話し合うことを促しました。

また、プレミアリーグも「Inside Matters」キャンペーンを立ち上げ、サッカーファンにメンタルヘルスケアの重要性を広めています。

このキャンペーンでは、選手が自身の経験をもとに、メンタルヘルスについて語るインタビューを公開したり、不安を理解し、解消するためのヒントやアドバイスを掲載した『Inside Matters Handbook』を発行したり、メンタルヘルスについて話し合う時の11の問い「スターティング・イレブン・クエッション」を用意するなどしています。


11の質問

  • 今、あなたの生活はどうですか?
  • 今、あなたを笑顔にしているものは何ですか?
  • リラックスできることは何ですか?
  • 今、何に挑戦していますか?
  • 心配ごとやストレスになっていることは何ですか?
  • あなたの気分はどうですか?順調ですか?
  • 本当に元気ですか?
  • よく眠れていますか?
  • サッカー以外のことで、今の気分に影響していることはありますか?
  • 今、いろいろなことが起こっているようですが、それらをどうしていますか?
  • 何かサポートできることはありますか?

*1 プレミアリーグの記事「Premier League helps fans to kick off a conversation on mental health」を参照
*2 サマリタンズの記事「Talk More Than Football」を参照。3Gemが2024年2月19〜21日に、イギリスのサッカーファン2,000人を対象に実施したとある

書籍もどうぞ

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著者

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櫻田潤

インフォグラフィック・デザイナー

サッカーとインフォグラフィックを愛するコンテンツレーベル「ビジュアルシンキング」運営。著『たのしいインフォグラフィック入門』『インフォグラフィック制作ガイド』


コンテンツのソース

Best Club Marketing Campaign(Football Business Awards)
Campaign we loved in October: Norwich City Football Club X World Mental Health Day 2023(Midas)
Club shows support for World Mental Health Day(Norwich City Football Club)
Inside Matters: Premier League stars share advice on tackling anxiety(Premier League)
Mental Health video made available to all(Norwich City Football Club)
Moving Norwich City mental health video hailed by UEFA(BBC)
Physical & Mental Health Wellbeing Advice(Premier League)
Premier League helps fans to kick off a conversation on mental health(Luton Town)
Samaritans to take place of shirt sponsors for Coventry fixture(Norwich City Football Club)
Success for City at Football Business Awards(Norwich City Football Club)
Talk More Than Football(Samaritans)
Winners 2024(Football Business Awards)
沿革(東京自殺防止センター)